開業に向けて「店舗を探さなきゃ」と思っても、不動産は未知で何から始めればいいか分からない——。そんな不安を抱えている方は少なくありません。
店舗(テナント)選びは立地や広さだけでなく、家賃負担、営業許可、集客のしやすさなど精査ポイントがたくさんあります。
この記事では、探し方の基本から注意点やコツ、契約の流れまで解説します。自分に合う物件をどう探したらいいのか、安心して開業に踏み出すための参考にしてみてください。
店舗探しを始める前にやるべきこと

物件探しの前に、まずは「誰に・どこで・どんな店を出すか」を明確にしておくことが大切です。これらを怠ると、せっかく見つけた物件でも「事業とのミスマッチ」による失敗につながりかねません。
店舗のコンセプトを明確にする
店舗探しの第一歩は、「どんなお店にしたいか」を言語化することです。
・20~30代女性がくつろげるカフェ
・仕事帰りに通いやすいネイルサロン
・サラリーマンが気軽に入れる居酒屋
上記のように、ターゲット・提供する価値・雰囲気まで具体的に描きましょう。
コンセプトが明確であれば、立地や広さ、必要な設備の判断に迷いがなくなり、探す物件の精度が高まります。
ターゲット層に合う商圏を考える
次に、「ターゲットがどんな立地なら足を運んでもらえるか」を基準に、商圏(=お客様が来てくれる範囲)を考えていきましょう。
例えば、ファミリー層がターゲットなら住宅街や大型スーパーの近く、働く女性向けのサービスならオフィス街や駅チカが候補になります。
事業計画・資金計画を立てる
そして、「家賃の適正予算を把握すること」も重要です。
店舗運営では家賃・光熱費・人件費・仕入れなど毎月いろいろな経費がかかります。「無理なく払っていけるか?」という視点で、収支バランスをしっかり考えて選ぶことが大切です。
客単価 × 客数 × 営業日数=売上
※例:客単価1,200円・1日30人来店・月26日営業の場合、月商93.6万円
売上高の目安は、上記のように計算できます。
ここから「仕入原価」や「販管費(家賃・人件費など)」を差し引いて利益を出す必要があります。
月商の8~10%以内
※上記の例の場合、月9万円前後が理想的。
また、内装工事や設備投資などの初期費用も見込んでおく必要があります。これらの費用も踏まえて、事業計画を立てておくことがとても重要です。
店舗物件の主な探し方

店舗の探し方は、意外と多くの選択肢があります。ここでは、初心者でも実践しやすい6つの方法を紹介します。
探し方①店舗に強い不動産会社へ相談する
1つ目は、不動産会社へ直接相談することです。
店舗物件は住居用とは探し方が違うため、テナントに詳しい不動産会社に相談するのがおすすめです。
業種や希望条件に合う物件を紹介してもらえることはもちろん、非公開情報を持っている場合もあります。
探し方②ポータルサイトを活用する
2つ目は、ポータルサイトの活用です。
インターネット上には、店舗やテナント物件に特化したポータルサイトが多数あります。
エリア、賃料、広さなどの条件を絞りながら、感覚的に複数の物件を比較検討できます。
希望に近い物件が見つかれば、サイト経由で問い合わせしてみましょう。
探し方③知人から紹介してもらう
3つ目は、知人からの紹介です。
日頃から周囲に相談しておくことで、優先的に情報が得られる可能性があります。タイミングが重要なので、こまめなコミュニケーションがポイントです。
探し方④SNSで最新物件情報を見つける
4つ目は、SNSの活用です。
最近では、X(旧Twitter)やInstagramなどで物件情報を発信する不動産会社が増えています。
ポータルサイトは掲載までに時間がかかることもあります。そのため、新着物件などリアルタイム性の高い情報に出会えるのがSNSの強みです。
探し方⑤出店したいエリアを歩いてみる
5つ目は、自分の足で出店予定エリアを歩くことです。
ポータルサイトで見落としていた物件や、検索条件で除外していた場所が、「意外といいかも」と感じることも。また、「○月○日閉店予定」といった張り紙から、近々空く物件の目星をつけられるケースもあります。
ネットに出る前に動ければ、ライバルより一歩先を行けます。
探し方⑥商工会などの出店支援サービスを利用する
最後は、地域の出店支援サービスを利用することです。
商工会議所や自治体には、創業者向けに物件紹介や支援制度を行っている場合があります。
補助金や創業相談とあわせて活用すると、出店準備を効率的に進められるのでおすすめです。
店舗探しの注意点

物件を見つけたからといって、すぐに契約してしまうのは危険です。「もう少し調べておけばよかった…」という声は、実は少なくありません。
後悔しないためにも、契約前に確認しておきたいポイントを解説します。
出店エリア周辺の綿密な調査を行う
どんなに条件が良さそうな物件でも、エリア環境や周辺状況で集客力は大きく変わります。特に店舗ビジネスは、インターネット上の情報だけで判断せず、実際に歩いて目で確かめることがとても大切です。
以下のような点は、必ず現地で確かめるようにしてください。
・平日・休日の人通りや交通量
・朝・昼・夕方など時間帯ごとの動き
・周辺に競合となる店舗があるか
・ 駅やバス停、学校、オフィスなど人の集まる施設との距離感
・ 雰囲気や治安、街の印象(通いやすさ・入りやすさ)
納得のいく店舗選びをするためにも、足を使った調査を惜しまないことが大切です。
前テナントの業種・撤退理由を聞く
気になる物件があったら、以前どんなお店が入っていて、どうして辞めたのかも聞いておくと安心です。
立地や賃料が一見良さそうでも、集客が難しい場所だったり、想定外のトラブルがあったりする可能性もあります。
前テナントと同じような業種であれば、なおさら慎重な判断が必要です。
営業許可が出るエリアか確認する
物件を借りればどこでも自由に営業できると思われがちですが、そのエリアが営業可能な地域かどうか、事前に必ず確認しましょう。特に注意したいのは、「用途地域」と「自治体の条例」です。
例えば、住宅専用地域では飲食店や一部のサービス業が認められない場合があります。また、自治体ごとの条例によって、営業時間や業種に制限がかかるケースもあります。
契約条件・内容をしっかり精査する
物件の契約にあたっては、契約書の中身を細かく確認することが非常に重要です。
内容をよく読まずに契約してしまうと、思わぬ負担やトラブルの原因になります。
【 チェックしておきたい契約内容の例】
契約期間・更新条件 | 何年契約なのか、更新時に更新料や再契約手数料が発生するか。 |
原状回復の範囲 | 内装や設備をどこまで元に戻す必要があるか。 ※居抜きの場合でも、思わぬ修繕費がかかる可能性も。 |
中途解約時の違約金 | 契約途中で解約する場合、どの程度の違約金や原状回復費が必要か。 |
保証金・敷金の扱い | 契約終了時に全額返還されるのか、償却(差し引かれる)される金額があるか。 |
共益費・管理費の内容 | 何に対して発生する費用なのか。 |
看板や外装の制限 | 看板設置や外装工事に制限がないか。 ※建物の美観保持などを理由に、制限がかかるケースも。 |
重要事項説明書や賃貸借契約書には、専門的で難しい用語がたくさん用いられます。
不動産会社から「よくある契約内容だから大丈夫です」と言われても、安易に進めずに一つ一つ納得してから契約するようにしましょう。
【業種別】店舗探しのポイント

一口に「店舗」といっても、業種によって物件の特徴や選ぶ際のポイントは異なります。
どの業種でも、前述の「営業許可の取得」と「看板設置」の可否は確認することが大前提です。
そのうえで本章では、代表的な4業種ごとの店舗探しのポイントを整理しました。
カフェ・飲食店の場合
換気・ダクトの設置が可能か、ガスや排水の容量が十分かなど、設備条件を慎重に確認しましょう。これらに加え、衛生的な環境を保てる十分な広さがあるかも確認してください。
また、人通りだけでなく、近隣に競合店が多すぎないかもチェックポイントです。居抜き物件を選ぶ際は、残置設備の状態や修繕費用の負担が誰にあるかも確認が必要です。
美容室・エステサロンの場合
水回りや電気容量は十分か、施術スペースが確保できる広さがあるかを確認しましょう。
特にエステサロンは、火気や施術内容によっては保健所の確認や許可が必要な場合もあります。
また、美容室は美容師法施行規則により、営業許可を取るには13㎡以上の作業スペースが必要です。物件選びの段階で広さも必ずチェックしましょう。
ペット関連店の場合
動物の種類や飼養頭数に応じて、法令で「最低限の飼養スペース」が設けられています。一例として、以下のような基準があります。
犬の飼養スペース | ・小型犬:約2㎡ ・中型犬:約3.5㎡ ・大型犬:約6.5㎡ |
猫の仕様スペース | ・床面積:分離型ケージサイズの2倍以上 ・高さ:体高の4倍以上 ・構造:2つ以上の棚を設けた3段以上の構造 |
また、ペット関連の店舗はにおいや鳴き声への配慮が求められるため、物件の構造や設備、防音性などに注意が必要です。自治体によっては動物取扱業の許可が出ない地域もあるため、用途地域の確認も欠かせません。
物販・小売店舗の場合
視認性が高く、入りやすい動線が確保されているかどうかがポイントです。通行人の属性が商品とマッチするかも重要です。
また、商品の搬入や在庫スペースを確保するために、バックヤードの広さや搬入口の有無も確認しておくと安心です。
倉庫を別で持っていない場合は、近隣でレンタルトランクルームの有無をチェックしておくことをおすすめします。
店舗物件契約の流れ

無事に店舗が見つかったら、次は契約や引き渡しの手続きへと進みます。
以下で契約までの基本的な流れを4つの段階に分けて解説します。
- 内見・申込
物件の候補が見つかったら、不動産会社に内見を依頼しましょう。
店舗は内装工事が前提のケースが多いため、物件の確認は欠かせません。施工業者が決まっている場合は、内見に同行してもらうと、設備相談や費用の見積もりがスムーズです。
前テナントが退去前なら、内見可能時期を確認しておくと安心です。人気物件はすぐに埋まるため、気に入ったらできるだけ早く申込書を提出しましょう。賃料や条件交渉がある場合は、申し込みと同時に行うのが一般的です。
- 入居審査
申込書を提出すると、不動産会社やオーナーによる入居審査が行われます。
審査では、事業内容・経歴・資金計画などが確認され、財務状況や店舗運営が問題ないかが判断されます。 会社の登記簿謄本や決算書、過去の実績資料などを求められることもあるため、事前に準備しておくとスムーズです。
審査期間は、すべての必要書類が揃ってから3~7日程度です。
- 賃貸借契約の締結
審査に通過したら、いよいよ賃貸借契約の締結です。
重要事項説明では、契約期間や禁止事項、原状回復の範囲など細かいルールを確認します。
特に注意したいのが、解約予告の期間(例:6ヶ月前通知)や中途解約時の違約金の有無です。
「契約から1年以内の解約は、保証金が返還されない」「中途解約をする場合、家賃3ヶ月分の違約金が発生する」など、特約事項を見落とさないようにしましょう。 - 引き渡し・着工
審査が完了して契約締結すると、契約日に物件の鍵が引き渡されます。引き渡し後は、いよいよ内装工事のスタートです。
工事前には、ビルの管理規約に基づいて施工内容の届け出や承認が必要な場合もあるため、スケジュールには余裕を持っておくと安心です。また、着工前に消防法や建築基準法の確認も行っておくと、後のトラブル防止につながります。
まとめ|店舗探しは焦らず、慎重に
店舗物件選びは、立地や広さ、家賃だけでなく、事業計画から許認可、契約条件まで総合的に見極めることが大切です。
実際に、「立地だけで決めてしまい、思うように集客できなかった」「どんぶり勘定で家賃を決めた結果、固定費の重さに悩まされた」と、事業規模を縮小される経営者の方もいます。
初めての出店では不安も多いですが、事前に情報を集め、一つひとつ確認を重ねていくことで、納得のいく物件に出会える可能性が高まります。
この記事を参考に、ぜひ自分に合った店舗探しを進めてみてください。